Vintage



甘い苦い葡萄酒を飲み干しましょう

グラスだなんて美しい世界に移さずに

泥酔して倒れてしまうまで飲み続けましょう

血よりは濃く 闇よりは明るい葡萄酒を






甘ったるいこのニオイ。
俺は甘いものが嫌いだ。
周りの奴らもそれは十二分に承知の筈だ。
それなのに……

「…おい。」
「ン?なーに?」
「…好い加減、離しやがれ。」
「ヤダ。」

低い声で唸る様に言ってみる。
だがすぐに一瞬の間もおかずに返ってきた返答に
諦めた様に俺は項垂れた。

「どうしたの?」

ニコリと笑って俺の肩に顎を乗せ、
顔を覗き込むようにしてこちらを見てくる此奴は、

「…俺は甘い物が嫌いなんだ。」
「ふぅん。で?」
「…離れろ。」
「ヤダ。」

堪らない。
何が堪らないって?
そりゃあ勿論、此の馬鹿が甘い物が嫌いと言う俺の
目の前でチョコレートを貪っている事だ。

…正確には、此奴は俺を抱きかかえている訳なのだが。

どちらにせよこの甘ったるい香りに包まれて
俺は軽い吐き気を覚えていた。


「ハクエもチョコ食べればいいのに。」
「ビターですら食べれないんだ。無理だ。」

離してくれと藻掻く。
するとこの無駄なく筋肉が付いた細い腕は
逃がすまいとさらに腕を絡めて俺を押さえつける。


どきりと、心臓が跳ねた 気がした。


「ッ…ったく、好い加減にしろっての…」


赤くなる顔を隠す様に呟き、顔を背ける。
気持ちを落ち着けようと、そのまま目を瞑る。



「ハクエ、ちょっと、」
「…何だ…っんぐ…」


俺がそうしているのに苛ついたのか、
無理矢理自分の方を向かせたこの馬鹿は
あろう事か俺が先程から苦手と呟き続けている
チョコレートを口に含んだと思いきや、
そのまま、唇を重ねてきた。


「ッ…ん、っ…」


口の中に広がる、甘く、苦い香り。

溶けてしまいそうな甘さの中にも
しっかりと根を下ろすこの苦さ。

俺は、これが嫌いなんだ。


追い求めても追い求めても、
俺を求めるクセして俺が求めていることに
わざと気づかないふりをする 此奴と酷似していて。


「っは…」
「どう?ハクエ、俺とチョコの味は。」
「クソまじぃ…」


ちゅ、と態とらしく下唇を軽く吸いあげてから
顔を離した此奴を睨むだけ睨んでから、違和感。


「…あ…、れ…?」
「どうしたの?」
「…いや、何でもない…」


一瞬感じたあのぐらりと頭が傾く感覚は、なんだったのだろう。
奇妙な感覚を覚えながらも、
なんともないんだと確信付けるために、首を振ってみる。


「ッ…」
「ね、ね…ハクエ、気づいてないだろうけどねぇ…」
「ラディッ…てめッ…」


再び自分を襲ったあのぐらりとした感覚。思い出した。
ずいぶん昔、此奴に無理矢理酒に付き合わされた事がある。
その時、酒に全く耐性の無い俺は酷い目に遭った。
あの時と全く同じ、感覚。


「…そ、このチョコ…お酒入ってるんだ♪」

「ッ……」


顔が赤くなるのが嫌と言うほどわかる。
嗚呼、そういえば、この馬鹿は無駄に酒が強いんだったっけ。
だったら、こんな強い酒の入ったチョコ食っても、
平気でいられるよなぁ、なんて
呑気な事を考えながら、
今となっては全く力が入らなくなってしまったが
それでも力一杯この馬鹿、ことラディルを睨みあげた。


「…ン?誘ってるの?」
「違ッ…!!」
「…ね、ハクエ、酔ったついでなんだから、飲もうよ?」


ほら、もう用意してるんだ。
と言わんばかりに目の前でボトルを振るラディルが
とても憎い。憎くて仕方がない。

酔いが醒めたら覚えておけよ、と
全く呂律が回らない舌で言ったつもりなのだが、
自分が思った以上に既に酔いが回っているらしい。
ただ、口からうなり声が発せられただけとなってしまった。


「うぅ……」
「ほら、こないだ一緒に飲んだときと同じ、赤ワイン。」


栓を空け、グラス等に注がずそのまま呷ったラディルは、
先程と同じように口移しで俺に酒を飲ませてくる。


「…、ン…」



こくりと、確かに喉が鳴った。

甘く、そして胸の奥に苦さを覚えながら、
俺の意識はそこで途切れた。






「ねぇ、ハクエ。」

「ハクエは、気づいて無いかもしれないけどねぇ。」

「俺、ちゃんとハクエの気持ちに気づいてるよ?」

「でも、まだ、君と面と向かって告白するのは、無理かなぁ。」



そうでしょう?と、腕の中で眠りに落ちた愛しい人に向けて。
今度は、ちゃんとグラスに注いだワインを
くるくると回して遊べば、
窓から迷い込んだ月明かりが綺麗。




「いつか 全てが俺のものになっちゃえばいいのに。」









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