涙空


ずっと空ばかり見ていた

手を伸ばし続けていればいつか届く

そう信じていたのは幼い頃だけど

それでも未だ俺は空をみるのが好きだった

それなのに




「カリー」


遠くから俺を呼ぶ、誰かの声がする。

…ホントに遠すぎて、コレだけじゃ誰だなんてわかんないけど。

でも、其れが誰かっての、直ぐ判るんだよね。
其奴は俺がわざわざ返事をしなくても
直ぐにここを見つけて
当たり前の顔で隣に座るんだろけど。


「カリンツー。返事くらいしてよー。」


ほら来た。


何もしなくても此奴は俺の隣でニコニコ笑ってる。


「…別に来いとか言ってないし。」
「つれないのー。」


何がそんなに可笑しいんだ。
そう尋ねたくなる程此奴はケラケラ笑って
俺の隣に寝っ転がった。

…動く度に揺れる金髪、綺麗だね。

なんて、アホな事を考えながら
すい、と視線をさっきまで俺が見てた空へ戻す。

からっからに晴れてた筈の空、暗くて。


「……オイ。」
「ん?なーに?」


逆光で顔はよく見えない。
見えないけど判る。

(……此奴、楽しんでる……)

自分の顔の両脇には此奴の腕。
これじゃあ寝返りを打って逃れる事もできない。


「…おい、何がしたい…」
「んー?」


腰から伸びる尻尾がふらりと嬉しそうに揺れる。

苛々とした目で逆光の所為ですっかり見えない顔を
睨もうと顔を上げた、その時。


「……ッ!!?」


軽い音と唇に柔らかい感触。

驚きで目を見開き焦点を必死で合わせる。



「…ん、やっぱりやーかいね♪」



すぃっと顔を遠ざけた此奴は満足そうに
自分の唇をぺろりと舐めあげ感触を確かめた。



「……ッ!てめッ……!!」

「あれれ〜?何赤くなってるッ……!!」
「あづッ!?」


(此奴俺にキスしやがった!)


その事実に思わずカッとして起きあがったのがいけなかった。


俺は此奴に組み敷かれている状態だ。

顔を上げればどうなるかなんて、考えなくてもわかるのに。


恥ずかしさに負けて跳ね起きたら、
此奴の額と俺の額が仲良くガチンコ。


「いったぁ……カリンツたら積極的〜。」
「っるせ!ラディがいけねぇんだろ!?」
「いやいや僕は欲望の赴くままに行動を起こしただけで
 文句言うならそう行動を起こさせた欲望に言ってね。」
「訳わかんねぇよ!」


きっとその時の俺の顔は真っ赤だっただろう。

自分でも顔が熱いのがわかる。


こいつの欲望は、ぶっちゃけ計り知れない。


次は何をするんだと身構えていたら、
思いの外額を擦りながらも再び横に寝転がった。


「ん?なぁに?襲って欲しかったの?」

「ンな訳ゃ無いだろボケ。」


頭の後ろで手をくんでにんまりとこちらを見てくる。
…なんでこいつはいつでもへらへらしてるんだ。


「んー?そりゃあ勿論カリと一緒だから〜。」
「…ッ…良く平気で言えるなお前。」
「カリンツが好きだからねぇ〜。」
「……」


なんだかカッカしてる自分が阿呆らしくなる程に、
此奴は気楽で羨ましいよ。
しかも、勝手に人の心を読んでくる。
そうぼやいたら、顔に出てたのって言われた。

「あれ?寝るの?」
「違う。」
「ねっころがったじゃん。」
「ほっとけ。」


ラディルがギリギリ手をだせない位置に寝転がり
ため息を吐きながら空を見上げる。

…まぁ、直ぐに隣の誰かさんが
のそのそと自分の隣に来るから意味無いんだろうけど。


「…そういやカリンツ空見るの好きだよねぇ。」


予想通り真横に転がってきたラディルが
俺の瞳に映った雲模様に気づいたのか、呟いた。


「……なんかむかつくー……」
「なんでだよ。」


寝っ転がっているのに飽きたのか、
のそりと起きあがって座り込む。


「カリンツは俺しか見ちゃイケナイの。」
「なんだそれ。」
「俺がカリンツ大好きだから。」
「訳わからん。」
「カリンツも其れに応えなくちゃナラナイの。」
「おい五月蠅いぞ。」



「ねぇ、」


「俺本気なの。」


「ねぇ、」


「……何で泣くのさ……」


「…しらね。」



目尻がかっと熱くなって空が滲む。

それが嫌になってぎゅっと目を閉じれば
両頬に熱くつたうものがある。


「……泣かないでよ…」

「ラディが勝手言うからストレス溜まって、
 ああこれは発散させなくちゃならないなって思ったの。」

「勝手って、酷…」



言われて気づいた想いなんて、絶対言うものか。


どちらにしろ、言われなくてもその内
無駄に勘の良い此奴は気づくんだろうけど。



再び自分の瞳に飛び込んできた世界は、

好きな筈の空が痛いほど憎く見える世界だった。









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